妊孕性温存目的の精子凍結の必要性について

日本がん・生殖医療学会誌にて掲載されている当院の論文を紹介いたします。
今回は、その1つである妊孕性温存のための精子凍結の必要性について、簡単にご紹介できればと思います。

「妊孕性温存のための精子凍結の有効性」
-The importance of sperm cryopreservation for fertility preservation

柴崎世菜(京野アートクリニック仙台 培養部)
日本がん・生殖医療学会誌 Vol.3, No.1, 31-35,2020

この研究は当院で1997年から2018年までの間に、妊孕性温存を目的として精子凍結を希望された方239名の方を対象に解析を行ったものです。当患者さんの約88%がAYA世代(15-39歳)の方です。

精子凍結は、日本癌治療学会においても推奨グレードB(科学的根拠が明確であり、推奨されるレベル)と定義されています。
射精ができ、精液中に精子がいれば、即日で治療が実施できます。
血液疾患などは、病気が発覚してからすぐに治療を開始することが求められますが、精子凍結であれば数日の間に温存ができるため、男性の妊孕性温存=精子凍結と考えられています。

男性の妊孕性温存が必要となる疾患については、一般的には精巣腫瘍や血液疾患が多く知られていますが、当院においても同様であり、血液疾患と精巣腫瘍で全体の約80%を占めました。そのほかの疾患としては大腸がん・直腸がん、前立腺がんなどがあります。

血液疾患や精巣腫瘍の治療後には、無精子症となった症例が13例確認されており、血液疾患症例で化学療法の前後で比較すると、高度乏精子症の割合は、化学療法前5.4%に対して、化学療法後では36.0%と有意に上昇している結果が得られています。こうしたことからも化学療法などの治療により男性の妊娠する力が大きく低下する可能性が高いことがわかります。

精子凍結を実施しようとしたうちの10%程度は、最終的に精子凍結ができませんでした。実施をしようとしたものの、無精子症であったり、生存精子が確認できなかったり、採精ができなかったりした方がいました。特に血液疾患の症例においては、化学療法後であった例も多く見られました。

来院時に無精子症の診断を受け、精巣内精子回収を実施した方は7例おり、そのうち5例が凍結することができています。

がん治療後に凍結精子の廃棄を申請された方は25例おり、そのうち11症例にはがん治療後に精液所見が回復したという例も確認されています。

精子凍結を実施した症例のうち、30症例では凍結しておいた精子を用いた生殖補助医療が実施されていて、23例が妊娠、22症例出産に至っていることから、凍結融解後の成績は良好であると考えられました。

がん治療医の先生を対象としたアンケートにおいては、多くの治療医が原疾患治療前の精子凍結の有効性を理解しているものの、実際は全患者の38%程度にしか情報提供がされておらず、今後はさらに原疾患治療医と生殖医療医の連携を深め、患者さんに必要十分な情報提供を行っていく必要性が示唆されました。
上記にも紹介させていただいたように、精子凍結はエビデンスも確立しており、速やかに比較的身体への負担も少なく実施できます。ただ、妊孕性温存を目的とした精子凍結を必要とする患者さんには、時間的猶予がないことも多くありますので、速やかな連絡のやり取り、連携が必要不可欠です。

また、長期的な保存という観点では、ご両親などの保護者や周囲の方とも連携を取りながら進めていく必要があります。

当院ではこれからも男女問わず妊孕性温存が実施できる設備として、精子凍結を実践していきたいと思いますし、速やかかつ患者さんの納得のいく意思決定支援、ご両親・ご家族なども含めて包括的なサポート体制の構築を目指していきたいと考えております。